アンコール・トム

アンコール・トムは12世紀後半にジャヤーヴァルマン7世により建築された城砦都市です。アンコール・トムとは大きな都を意味し、一辺3キロメートルの四角い城壁と堀に囲まれています。中心にジャヤヴァルマン七世が建てたバイヨン寺院があり、その周辺にも寺院が点在しています。
橋にヒンドゥー教の神々が並びます
アンコール・トムから見るバイヨンです
アンコール・トムの入口にあたる南大門は23メートルの高さがあります。塔には観世音菩薩の顔が安置され、南大門の前に架かる橋にはヒンドゥー教の神様の石像が並びます。この橋を渡り大門を抜けてアンコール・ワットの45倍の敷地があるアンコール・トムに入ります。
バイヨン

アンコール・トムの中心にあるバイヨンは、メール山(須弥山)を象徴しています。メール山は、古代インドの宇宙観によると神々の住む聖域で神が降臨する場所です。二重の回廊で囲まれています。
東西南北に延びる幹線道路は、メール山から世界に向かう道を象徴していて、城壁はヒマラヤ霊峰、城壁を取り巻く環濠は大海を表したものになります。この宇宙観は仏教によるもので、ヒンドゥー教の影響を受けたアンコール・ワットの宇宙観とは異なります。
メール山を象徴した仏塔が並びます
壁には彫刻が施されます
バイヨンには49基もの仏塔があります。この塔の四面には大きな菩薩の顔が設置されています。圧倒的な大きさの菩薩の顔は微笑んでいるため、クメールの微笑と呼ばれます。
塔の四面に菩薩の顔が施されます
菩薩の笑顔はクメールの微笑と呼ばれます
バイヨン内部にある塔の中には仏像が現存されていています。現地の人が線香を渡してくれるので、観光客でも祈りを捧げることができます。もちろん幾らかお金を渡さないといけないと思います。
回廊にある空間に仏像が安置されます
アプサラの踊りが彫られています
バイヨン遺跡の柱などにアプサラ(クメール語ではデワラ)が彫られています。アプサラは美しい女性の姿をした天女あるいは踊り子で、女神ラクシュミもアプサラの一人とされます。アプサラは戦死者の霊を天界へ運ぶ役割もあるそうです。
きれいな女性の彫刻です
トンレサップ湖での戦争の様子です
バイヨン遺跡の壁面には庶民の生活などの彫刻が施されています。このうち中国やイスラムとの戦争の様子が描かれたレリーフがあり、カンボジア最大の湖であるトンレサップ湖での戦いを描いているものがあります。トンレサップ湖は雨期になると琵琶湖の15倍もの大きさになります。
バプーオン

バプーオンは1060年にウダヤーディチャヴァルマン2世により建てられたシヴァ神を祀る寺院です。アンコール・トムの内部にはありますが、バイヨンやアンコール・トムより古い時代に作られているため、バプーオンがあるところにアンコール・トムが造られたと言っても過言ではないと思います。
バプーオンとは隠し子のことです。タイとクメールの王が兄弟だった頃、クメール王はタイ王の子供を預かりましたが、クメールの役人が陰謀だと思いタイ王の子供を殺してしまっためタイ軍が攻めてきました。その時クメール王妃は自分の子供をここに隠したためバプーオンと呼ばれるようになりました。
沐浴池があります
ピラミッド式の寺院です
寺院の形態はピラミッド式です。正面から横の回廊を通ってバプーオンの横側から上部に上がることができますが階段はだいぶ急です。急な階段を登れば高さ24メートルあるテラスに出ることができ、全容を眺めることができます。
ピミアナカス

11世紀初頭にスールヤヴァルマン一世によって作られた寺院です。正しくはピミアン・アカーハと呼び、天上の神殿、空中楼閣といった意味があります。ピミアナカスは王族の儀式の場として使用されました。
東塔門をくぐると、小さなピラミッド型の建物があります。このピラミッド型の造形が採用されたのは、地上から仰ぎ見るという視覚を意識したためだそうな。保存状態はあまり良くなく、ところどころ崩壊しているように思えました。
ところどころ崩壊しています
寺院のような重厚な石造りの塔です
ピミアナカスがあったところは、アンコール朝の王宮がありました。王宮は城壁に囲まれており現在も城壁と城門のほか東塔門が残されています。塔を抜けると広場になっており、王が閲兵をしていたテラスがあります。
ライ王のテラスと像のテラス

ライ王のテラスは、12世紀末にジャヤヴァルマン七世によって建築されたテラスで、ヒンドゥー教の神話の一幕を描いた緻密な彫刻があります。三島由紀夫の戯曲「ライ王のテラス」の題材になりました。
1966年にフランス極東学院により修復が完成しましたが、発掘調査の結果、現在のテラスが完成する前に一度崩壊したあと再建築されたことがわかりました。12世紀以前にすでにテラスの原型があり後世にそれを修復したと言うことです。
複数の面に彫刻があります
シーサーみたいな像が守ります
像のテラスも12世紀にジャヤヴァルマン七世が建てました。長さ約350メートルにわたり象やガルーダの彫刻が施されるテラスは、階段の両側にはインドラ神の乗り物である3つの頭を持つ聖なる象・アイラヴァタが安置されているのが特徴です。
象の鼻が特徴的なテラスです
テラスを支えるガルーダ像です
象のテラスにはガルーダが装飾されています。ガルーダはインド神話に登場する黄金の羽根を持つ鳥人間でヴィシュヌ神の乗り物でした。このガルーダや象の彫刻が施される象のテラスは儀式や式典、王の閲兵に使われました。