名取川の渓谷

仙台市を流れる名取川は仙台平野の肥沃な大地を生み出し仙台藩６４万石の礎ともなりました。杜の都と言われる仙台市とその周囲は名取川の治水、利水を進めたことで築き上げられています。名取川の水源に近い二口渓谷から秋保大滝、磊々峡に至るまで、名取川の清流は見事な景観も生み出しています。

秋保大滝

秋保大滝は名取川の全流が断崖を落下する巨大な滝です。高さ約55メートル、幅約６メートルあり那智滝（和歌山県）華厳滝（栃木県）と共に日本三大名爆とされています。滝口の左右に水の浸蝕を受けた巨岩が相対しており「滝まなこ」と呼ばれる奇観をなしています。

蔵王国定公園及び県立自然公園二口渓谷にある秋保大滝は、国の名勝や日本の滝百選にも選ばれています。秋保大滝不動堂近くの滝見台から秋保大滝を眺めるだけではなく滝壺まで行くこともできます。滝見台から滝壺までは山道を歩くことになりますが、車の場合は近くの駐車場に移動すると負担が少ないです。

滝壺ではダイナミックに落下する滝の水しぶきを感じることができます。雪解け水が川となって流れ落ちているようで、滝から流れる水は澄んでいて冷たく気持ちいいです。泳いでいる人は見かけませんが、清流に足を浸けて涼む人がいました。

秋保大滝不動堂

秋保大滝の滝見台の近くにある秋保大滝不動堂は、真言宗智山派の滝本山西光寺の寺院で、平安時代初期に慈覚大師円仁が不動明王を本尊として勧請して創建したとされています。伝承によると円仁が陸奥国を訪れた際に磊々峡の景観を見て聖地と悟りますが、地元住民の協力が得られず磊々峡での寺院建立が頓挫しました。そこで出羽国山寺立石寺に向かう途中で秋保大滝の素晴らしい景観を見て立石寺奥之院として不動堂を整備したのが始まりと言われます。

元和８年に山形藩に入封した鳥居忠政は前藩主の最上家所縁の寺院に不公平な圧力を加えたため、立石寺の住職・円海は幕府に訴えるとともに秋保大滝で祈祷を行いました。これにより立石寺は幕府から朱印状を賜り、やがて鳥居家とも関係が改善されたと言われます。

秋保大滝不動尊は長い歴史の中で興隆と衰退を繰り返してきましたが、現在の伽藍は江戸時代後期に知足上人により再興され、文政８年に不動堂が再建されています。現在においても、東北三十六不動霊場２９番札所、みちのく巡礼第２６番札所になっています。

秋保神社

秋保大滝から５キロほど下流にある秋保神社は、平安時代初期に坂上田村麻呂が東北を治める際に熊野神社を祀ったのが始まりとされています。勝負の神として知られ、境内には受験生やアスリートから奉納されたのぼりが多く掲げられています。

室町時代に秋保郷の領主である平盛房（秋保氏の祖・秋保盛房）は明応９年(1500年)に深谷大曲城主・永井掃部晴信に攻められ最上を頼って山形に流浪の身となりました。天童に留まること１０年余り、所領を取り戻すべく信州（長野県）の諏訪大社に必勝祈願をして天童に戻ると秋保郷は永井氏の悪政により民が苦しんでいました。秋保郷の民は平盛房を天童より迎え入れ永正８年(1511年)に永井氏の居城戸崎城を攻めてこれを滅ぼし所領を回復しました。

平盛房は諏訪神社の御神霊をこの地に勧請して秋保郷の守護神として崇拝しました。こうして勝負の神、戦の神として後に伊達家からも尊崇が寄せられることになります。境内には瓦素材の厄割玉を投げつけて厄を払う勝石や樹齢３５０年の子宝、子育てを祈願する巨大なイチョウの木があります。

磊々峡

秋保大滝から１５キロほど下流の秋保温泉郷には磊々峡と呼ばれる渓谷が約１キロメートルに渡って広がります。長い年月をかけて名取川の清流に洗われてできた岩肌が見事な景観を生み出しており、昭和６年(1931年)に夏目漱石の門下で東北大学名誉教授の小宮豊隆氏により「磊々峡」と命名されました。

磊々峡の中心にある覗橋からは平成26年(2014年)に「恋人の聖地」として認定されたハート型の岩のくぼみがあります。この覗橋の下流側には約６５０メートルの遊歩道が整備され「八間巌」「鳴合底」「鬼面巌」などの奇勝や「時雨滝」「三筋滝」などの滝が織りなす美しさを堪能することができます。

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